気持ちいい回答だわ

なやみのるつぼ

 

 ●相談者 女性 60代

 60代の独身女性です。

 退職する今までずっと働いていたので、これまでの人生で「主婦」と称する人たちとのお付き合いはほとんどありませんでした。私自身、学校より会社生活の方が性に合っていたと思うので、今まで働いてきた40年以上、とても充実した日々を過ごさせてもらいました。

ログイン前の続き 退職したあと、仕事の転勤先だった関東から、故郷の関西に戻りました。そして、地元でボランティア活動や体操教室を通じ、主婦の方たちとお付き合いする機会ができました。

 そういうとき、「ご主人の転勤先についていかれたのですね」と言われるので、「いいえ私自身の仕事のためでした」と答えます。すると、よく聞かれるのが、こういった質問です。

 「これまで一度も結婚されなかったのですか?」

 「なぜ?」

 残念ながら、皆さんを納得させられるような理由がありません。好きに生きてきた結果、現在がこうであるだけなのですから、いつも何と答えたらいいのか悩みます。

 結婚したのなら、その理由は「こんな出会いがあって」とか「友人の紹介から始まった」とか、いろいろあるとは思うのですが、しない理由というのはないのです。

 主婦の方には分かってもらいにくいですが、どうしたらいいでしょうか。

 

 

 ○回答者 社会学者・上野千鶴子 「独ハラ」対策を教えましょう

 

 ふふ、来ましたね~。ずっと「戸籍に×のない負け犬シングル」の上野です。独身であることにお悩みはなく、既婚女性にいちいち独身でいる理由を聞かれる独身ハラスメントがイヤ、なんですね。

 あなたとほぼ同世代の生涯非婚率は女性6%、男性13%程度。わたしの同世代(団塊世代)の非婚率は女性5%、男性9%と圧倒的に少数派でしたが、最新の2015年の統計では女性14%、男性23%。現在30代後半の非婚率は女性が4人に1人、男性が3人に1人ですから、非婚はひとつのライフスタイルになるでしょう。猫も杓子(しゃくし)も結婚した皆婚社会は過去のものになりました。とはいえ、自分が人口学的少数派に属することは自覚しておきましょう。

 たしかにあなたが言うとおり、結婚は決断しないとできません。独身は決断しないままの状態が持続しただけ。攻撃は最大の防御。質問には質問で返す。それなら「迷って一人に決められなかったんですぅ。よく決められましたね。(後悔してませんか?をつけてもよい)」「ええっ、たった一人だけと一生セックスするなんてすごい決断ですね!わたしにはできませ~ん」「周囲に羨(うらや)ましい結婚生活してる夫婦がいなかったもんですから~」「結婚して何かいいことありましたか。あったら教えてくださ~い」。ま、周囲の主婦に嫌われること請け合いですけどね。

 予想される答えは「結婚はともかく、子どもを産んだことは最大の宝物」。そういうときは素直に「うらやましいわあ、でも子どもさんで苦労してらっしゃる方もたくさんいらっしゃいますね。子どもを育てる喜びを味わわなかった代わりに、リスクも背負いませんでしたから」と。

 女として「結婚して一人前」より「母になって一人前」という方がずっと根強い神話。「子どもを産んで初めて学んだことが多かった」という女性に対して、わたしの友人はこう言い放ちました。「子どもを産んだおかげで、この程度で済んでいるのね」

 ライフスタイルが違うなら互いに異文化、と思って異文化交流を楽しみましょう。へえ、ほお、主婦ってこんなふうにものを考えたり振る舞ったりするのか、とオドロキの連続です。気配りとまめまめしさは働く女より主婦の方が優位。わたしは主婦経験者の方たちにほんとにやさしくしてもらって主婦文化を尊敬しています。そのためにはまず自分が「異文化」だと相手に認識してもらいましょう。

(悩みのるつぼ)独身でいる理由を聞かれる:朝日新聞デジタル