伝統の定義は
例えば…相撲
「伝統」という言い訳
「日本国の伝統に合わない」と言ったそうだ。宮中晩さん会へ同性パートナーを伴うことに反対した、自民党の竹下亘氏の反対理由である。伝統という言葉をどう定義しているのだろう。恐らく日本文化についてほとんどご存じないにもかかわらず知っているような気分をお持ちで、伝統の定義は「私の意見に合うもの」なのだろう。
日本ほど同性愛者への偏見が無い国は珍しかった。その傾向は古代からあり、貴族、僧侶、武士の麗しき文化として継承され、江戸時代はそれが庶民に広がったわけなので、日本の伝統的な宮中晩さん会にそぐわない理由がない。
もう一つ「伝統」を盾にしている事柄がある。選択的夫婦別姓を妨げる動きだ。日本人の夫婦が同姓になったのは1898(明治31)年。それまでは夫婦別姓だったので、この時も日本の伝統に合わない、と反対があった。このように「伝統に合わない」という言葉は「私の意見と違う」という意味に使われる。しかし今日のような日本に関する無知は、政治家だったら恥ずかしくはないか。しかも欧米の多くの国や州は選択的夫婦別姓となっており、主要7カ国(G7)の国々で同性カップルの法的保障がないのは今や日本だけだ。
事態はもっと深刻だ。竹下氏は発言が批判されると「言わなきゃよかった」と述べたそうだ。「自分の理解が及ばなかった」ではない。政治家が、民主主義国家の根幹にかかわる「人権」や「ダイバーシティー(多様性)」の意味を理解していないのである。
法政大はダイバーシティーを宣言し推進している。それには人権意識の深化は欠かせない。LGBTなど性的少数者が古今東西人間の普通のありかたとして定着していることを前提に、差別を恐れず学べる環境作りが大学の役目だ。近く英国からシンポジウムに出席する女性教授を迎える。同性パートナーと共に来日する。ちょっと日本が恥ずかしい。(法政大総長)